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墓参 [空景]





寺院08.jpg



 八月十一日 夕方、
 所用があり早めに仕事を切り上げさせて貰いました。
 その用事も意外に早く済みましたので、
 明日の墓参りの前に墓掃除に行くことにしました。

 この日、夕方になってそう決心したのも、
 折しも台風四号が日本列島に接近していため。
 その台風は明日には当地に再接近し通過するとの予報、
 我が家は例年十三日の草朝に墓参りを済ませることにしているので、
 下手をすると風雨で墓参りが出来ないかもしれないと思ったから。
 また、例年であれば前日の朝か日中には墓掃除をするのですが、
 今年は仕事やら家の事情でこの日も夕方まで済ませていませんでした。
 台風の動きによっては、
 十三日の朝に掃除をする覚悟もしていましたが、
 風雨の中での掃除も大変かと切羽詰まっての決心でした。


 所用を済ませ一旦家に帰り、
 墓掃除の道具を車に積み込み墓地に向かいます。
 盆を迎えれば暦の上では夏至を過ぎて二ヶ月近くになる訳ですが、
 強烈な日差しが夕暮れまで威力を落とさない空をこうも見せつけられますと、
 確実に日一日と昼が短くなって行くこともうっかり忘れてしまいます。

 この日の夕方は幾分暑さがやわらぎ、
 西の山に勢いの無い太陽が落ちかけているのを見て、
 夕暮れの早くなったことを感じ取りました。
 墓地に着く意外にも他に墓参りや墓掃除に訪れている人の姿はほとんど無く、
 広い墓地も静まりかえっていました。
 ただ、台風の迫る気配、
 風や空気の雰囲気が少しだけ違っているだけでした。

 日の暮れない内にと早々に墓掃除に掛かります。
 この時間にはちょうど建ち並ぶ寺院と木立の日影となり、
 墓地は暑くなく掃除をするには好都合でした。
 

 正直に言うと、
 こうして墓掃除をする事は面倒で、
 腰を持ち上げるまで少々時間が必要なのです。
 ぎりぎりまでその腰を上げないわけですが、
 何があっても私が掃除をしないことにはいけないのです。
 他には誰もいません。
 明日には親戚も墓参りに訪れるので、
 汚れたままでは面目も立ちません。
 掃除をしないわけにはいきません。
 この日も墓掃除を始めたときには嫌気でいっぱいで、
 ただこの面倒な作業を早く済ませることしか頭の中にはありませんでした。



 ところが、
 墓掃除の作業に没頭していると、
 周囲の空気の気配の感じ方が変わりました。
 まず、暑さを忘れました。
 少し音が遠ざかるような気もしました。
 僅かに心が静まってきたような気がしました。

 そして、
 「一年に一回のことだから、
 こうして掃除をすることも良いことだ」、
 何故だかそんな思いが心の奥底から湧いてきたのです。
 そう思うことが自分でも不思議で仕方がありませんでした。
 今でもその理由はわかりませんでしたが、
 自分の心の中で何かが変わったのでしょう。

 その後、掃除の手は丁寧になりました。
 台風が接近する気配など忘れ、
 しっかりと掃除をしました。
 手や首筋にはいくつも蚊に刺されていましたが、
 掃除が終わるまでは気にもなりませんでした。
 墓掃除を済ませ墓を去るときには、
 これまでになく満たされた心で溢れていました。
 お陰で今年は良い盆を迎えることができました。
 
 








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